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5月号 自然の岩場を登ってみよう

5月号 自然の岩場を登ってみよう

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「自然の岩場を登ってみよう」

                            上野 司

 今月から、毎月第2土曜日に、「自然の岩場教室」が開催されます。既に多くの方から申込を頂いておりますが、これまで室内クライミングの教室に参加されている皆さんにとっては、「室内の人工的な壁だけでなく屋外の自然の岩場でもクライミングを楽しもう」ということでしょうし、妙義山や両神山、赤岩尾根といった岩場の多い山の登山が好きだという皆さんにとっては、「岩場が好きなので、少し本格的にロープ操作を学んでみよう」ということなのだと思います。まさにこの2つが「自然の岩場教室」への入口になっているのでしょう。ただ「妙義山や両神山などでも危険が多いのに、もっと危険なことはしたくないので、この教室に興味はあるけど止めておこうと思っている」「室内クライミングは楽しいが、自然の岩場は危険そうに見える」との声も聞きましたので、安全、危険ということを含めてクライミングのお話を少しさせてもらえたらと思います。

クライミングで「ロープを使う」というと、登山道の岩場に結んであるロープをつかみ、引っ張りながら登ることをイメージする方が多いと思いますが、クライミングで使用するロープは、万一落ちた時に、下まで転落していく危険を減らす目的でつけているので、引っ張って登るために使うことはまずありません。「フリークライミング」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、そこで言う「フリー」とは「道具の使用が無い」という意味で、安全確保のために使うことを別にして、登るための直接的手段として道具は一切使わないのが原則です。クライミングの用具としてよく知られているロープやカラビナ、ボルト・ハーケンなどは、万一落ちた時の安全確保のためにのみ使用しているわけで、それをつかんで登ることは、ある意味でルール違反なのです。「フリークライミング」と対になっている言葉に「エイドクライミング(aidとは補助道具という意味)」という言葉がありますが、これは岩に打たれたボルトにアブミと呼ばれる携帯用縄ばしごをかけて登るような登攀行為を指します。ですから、厳密な意味では、クライミング中に安全上つけているロープをつかむことは「エイドクライミング」の一種になり、通常のクライミングの正統的な使い方ではありません。もちろん、登山道で設置されているクサリやロープは、落ちるのを防止する目的ではなく、つかんで登るためのものであり、これをつかんで登ることは全く問題ありません。危険・安全ということで言えば、そもそも「これ以上難しい岩場をロープなしで登るのは危険すぎるので、ロープを使ってより安全に登ろう」というのがロープを使用する目的であり動機ですから、ロープとは危険な場所をより安全に登るための安全用具であり、ロープ操作を学べば妙義や両神もより安全に登れるようになる、というのが正しい捉え方なのだと思います。

さて、「フリークライミング」の対の言葉に「エイドクライミング」があるという話をしましたが、現在よく使われる対の概念に「アルパインクライミング」というものがあります。これは、「ヨーロッパアルプス風の山登り」というのが原義ですが、無雪期の乾いた岩場を舞台に展開される「フリークライミング」に対して、今では広く「山岳地域における登攀」を意味し、剣岳・穂高岳・谷川岳などでの岩壁登攀、アイスクライミング、沢登りなども含むものとされます。「フリークライミング」が鍛えられた肉体をもって、乾いた岩だけを手がかりに登るのに対し、「アルパインクライミング」は、時にアイゼンやピッケル、アブミなどを登る手段として使用し、雪や氷、沢の濡れた滝まで、山岳地域のあらゆる自然を対象に登ります。「フリークライミング」は、難易度の高い、岩質の良い壁を登ることに意識が向いていることから、山の頂上を目指す意識はなく、落ちる可能性を前提に高難度に挑むので登攀に使う支点は強固なものを求めるのに対して、「アルパインクライミング」は、山頂に至るバリエーションルートとしてクライミングをしている意識が強く、脆弱で不十分な支点でも我慢して使う傾向が強いなどの違いが出てきます。

世にクライマーと言われる人はたくさんいますが、「フリー」志向の人と「アルパイン」志向の人に大きく分かれ、今では、室内壁の普及や山岳地でも初登攀できる場所がなくなっていること、冒険志向の衰退などから、アルパイン志向の人が徐々に減り、フリー志向のクライマーが増えている感じがします。「フリークライミング」の中でも、冒険性と危険性をなるべく除去し、1ピッチで技術的難度を競うことに楽しみを見出すようなクライミングを「スポートクライミング」と呼び、その典型が室内でのクライミング選手権だと思いますが、ボルダリング(低い高さの壁をロープを使わずに登るフリークライミングの一種)人気の高まりもあり、若い人を中心に近年愛好者が急増しています。

しかし、未知への憧れを動機に登山の世界に入り込んだ私としては、未知への憧れを胸に、困難や危険を経験と技術で乗り越えていくことに喜びを感じるアルパインクライマーの仲間が少しでも増えていくことを願っていますし、アルパインクライミングの魅力を次の世代にも継承していきたいと思っています。我がNPOのリーダー・スタッフ集団として結成されている山岳会は「アルパインクラブNPOさいたま」と言いますが、言葉どおりアルパインクライミングを志向する者の集まりですし、そういう志向の集団だからこそ、岩場、沢、雪など様々な自然に彩られたNPOの多様な登山でスタッフの役割が果たせるのだと思います。フリー志向のクライマーの集団では、岩登りだけは上手かもしれませんが、多様な登山を導くだけの技術、経験、意欲はないことでしょう。

少しばかりアルパインクライミングの宣伝をしてしまいましたが、今月始まる「自然の岩場教室」は、そのようなアルパインクライミングの入門講座という位置づけとともに、室内壁の延長として外岩でやるフリークライミングの入門講座という位置づけもあります。教室での目標としている「二子山中央稜」というルートは、アルパインクライマーの登竜門とされているルートであるとともに、フリークライミングで「マルチピッチ」と呼ばれる1ピッチでなく数ピッチの間クライミングが続くルートの入門ルートにもなっています。「年齢のこともあるし、もう谷川や剣での岩登りは望んでいない。ただ自然の岩場を安全に登ってみたいだけ」という方にもお勧めの教室です。

登山の魅力は広く、深く、そして様々です。山頂からの大展望、鋭い岩峰、深い森林、可憐な高山植物、新緑、紅葉に雪山。らくらくハイキングからアルプスの縦走登山、クライミングまで。そんな山々を楽しむには一定の体力、知識、技術が要りますが、クライミングは、危険を伴うものであるだけに、きちんとした練習が不可欠でしょう。とりわけ、自然の岩場には室内にない危険がありますし、剣や穂高に行ったり、雪や氷や沢の世界に足を踏み入れることで、危険な要素は増していきます。しかし、危険な要素が増してくるからこそ、それを乗り越えた時の充実感がたまらない、というのも登山の真実です。危険を自覚しながら、危険を乗り越えていく技術を学び、登山の世界を豊かなものにしていきましょう。「自然の岩場教室」へのご参加をお勧めします。

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