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5月号 「イスラム国」問題から、世界の人々との連帯を考える

5月号 「イスラム国」問題から、世界の人々との連帯を考える

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最近、世界と日本の関係に関わることで、何か胸がザワザワすることが多くなっている気がします。沖縄のアメリカ軍基地問題、拉致問題や従軍慰安婦問題、ヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)問題など東アジアをめぐる問題もありますが、やはり一番は、「イスラム国」ISによる日本人2人の殺害事件が影響しているのでしょう。人種や民族、宗教、国籍が違っても人類はみな兄弟、分かり合える、という私の素朴な感情に疑いが生じてきています。私はもともと、女性差別や在日外国人差別など、様々な差別に反対する気持ちが人一倍強いのですが、日本人だからという理由だけで、罪のない人間を処刑し、「お前の国民がどこにいようとも虐殺をもたらすだろう。日本の悪夢をいま始めよう」と語る勢力が世界に存在することは恐怖ですし、許せないことだと感じています。

しかし、どうしたら良いのか?あらゆる戦争に反対すると言っている私が、有志連合によるイスラム国壊滅作戦(戦争)に期待するのか?力に対して力で戦う、そんなやり方が悲劇を拡大するのではないか。そんな整理のできない気持ちが胸をザワつかせるのでしょう。そんな折、優しく人間味あふれる発言でいつも私たちを励ましてくれる鎌田實医師の著書「イスラム国よ」に出会いました。

鎌田医師は、長野県の諏訪中央病院を拠点に地域医療の発展に力を尽くしてきた方ですが、この10年間はアラブ世界での医療支援活動を行い、頻繁にイラクやヨルダンを訪れ、イスラムの世界で生きる人々に接し、彼らの胸に聴診器をあて、共に遊び、食事をしてきた方です。鎌田医師はこう言います「どんなにつらい状況にあっても、みんなあたたかく、優しい人たちでした。ただの一度たりとも、僕は彼らの世界に触れる中で嫌な思いをしたことがありません」と。

しかし、そのイスラム世界に、「イスラム」を名乗るとんでもない勢力が現われた。そんな状況の中、鎌田医師は考えます。「殺伐とした状況になった時ほど、非道な暴力に対してもできるだけ力を抑制し、暴力には暴力で対抗するのが唯一の解決策と思わずに、愛の手を差し伸べることが大切と信じ続けてきました。この30年、過激派の暴力に武力で対抗して、むしろ暴力は巨大化し、地下にもぐって、世界に広がってしまいました」と。あんな事件が起きている時に「何を絵空事を」と言われるのを覚悟の上で、「彼らの憎しみがひどくても、憎しみ返しをしないように心がけていきたい。イスラムの世界の恵まれないつらい状況にいる若者や子どもたちに、医療や教育のチャンスを提供することもその愛の形のひとつです」と言い切ります。行きどころのない暮らし、やり場のない怒りからアラブの若者たちが危険な思想に簡単に洗脳されないためにも、人道支援が一番だと鎌田さんは考えるのです。

そもそも「イスラム国」のような危険な勢力が台頭してきた理由を、鎌田さんはこう説明します。ソ連のアフガン侵攻により、アフガニスタンに親ソ派の政権が樹立され、それに対抗するオサマ・ビン・ラディンなどのソ連と闘う聖戦士がゲリラ活動を開始。それをアメリカが支援し、国際テロ組織アルカイダの基盤ができる。その後、湾岸戦争によりアラブに反米的意識が高まり、2001年のアメリカ同時多発テロへの報復としての対テロ戦争で、アルカイダは世界に散り、自律的で分散型のテロ集団が各地にできる。2003年のイラク戦争で、スンニ派中心のフセイン政権が崩壊。アルカイダの残党にフセイン政権を追われたイラクの諜報機関、軍隊関係者が合流し、「イラクのイスラム国」を結成。2010年から始まった「アラブの春」により、シーア派に近いアサド政権打倒の動きが起こったシリアに彼らはなだれ込み、「イラク・シリアのイスラム国」として、シリア内戦の中、勢力を拡大し、行政能力・軍事能力の高い組織を作り上げていく。大まかに言えば、そんな歴史の流れがあったようです。このように、アラブ世界へのソ連や欧米の介入の中、欧米への憎しみの感情を抱えたイスラム原理主義の過激派グループ「イスラム国」が出来、そこに世界中から不満を持った若者が集まってくるという事態になったというのです。

「イスラム国」のやっていることは決して許せませんが、そのような勢力が生み出される背景・状況をきちんとつかみ、またそこに吸い寄せられる若者の事情と気持ちも理解しながら、根底からこの憎しみを溶かしていく道はないのか、それを考え続けよう、というのが鎌田医師の言いたいことなのだと思います。私はイスラムの国に行ったことがありませんし、イスラム教を学んだこともありませんので、偉そうなことは言えないのですが、私たちは、この事件だけから、イスラム教やイスラムの人々に敵愾心を持ってはならないのだと思います。いま読んでいる本の中に、拉致被害者の蓮池薫さんの著書「拉致と決断」があるのですが、その中であれだけ苦しめられた北朝鮮という国の民衆に対して、蓮池さんの言っている言葉が心に残ります。「彼らは私たちの敵でもなく、憎悪の対象でもない。問題は拉致を指令し、それを実行した人たちにある。それをしっかりと区別することは、今後の拉致問題解決や日朝関係にも必要なことと考える」。

今日、日本の山にも、たくさんの外国人が訪れます。富士山はもちろん、屋久島でもお会いしましたし、先日行った蓮華温泉の山スキーでも10人ほどのドイツ人スキーヤーと同宿となりました。これからの世界では、私たちが民族、宗教、習慣の異なる海外に出かける機会も多くなると思いますが、逆に日本の山の魅力にひかれてたくさんの外国人が日本にやって来る時代にもなるでしょう。そんな時も、自国の文化に対する誇りとともに、相手の文化に尊敬の念を持ち、優しい心で付き合っていけたらどんなにか素敵だろうと思います。国と国との関係は、双方の時の政権の考え方があり、なかなか思うようにはなりませんが、少なくとも民衆のレベルでは、友好と連帯を基調に、気持ちの良い関係を築いていきたいですね。

上野司

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