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11月号 「御嶽山の火山災害について考える」

11月号 「御嶽山の火山災害について考える」

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9月27日お昼、紅葉を楽しむ御嶽山山頂付近の大勢の登山者の上に火山灰とともに人間の頭ほどもある噴石が降り注いだ。楽しいはずの登山は暗転し、死者56人、行方不明者7人という戦後最悪の火山災害が起きたのだ。ちょうどその時、私たちは奥穂高岳・ジャンダルム手前の岩峰の上に立ち、「あの煙は何だろう、雲じゃないよね。」などと雲海の上から立ち上る噴煙を見ながら話していた。山小屋に着き、テレビを見てびっくり、何人かの山仲間から「御嶽山に登っていないよね」という確認のメールも受け、大変な大災害が起きたのだと、実感した次第だ。紅葉真っ盛りの土曜日の好天、ロープウェイを使えば3時間ほどで登れる御嶽山の山頂に私が居ても不思議はない、というタイミングだった。まわりの人から「山好き」と認知されているだろう会員の皆さんのことだから、「御嶽山に登っていないよね、元気だよね」などの確認メールをもらった方も多かったのではないかと推察している。

本当にタイミングが悪かったと思う。土曜日、好天、紅葉の見頃、正午、この中の一つでも違っていたら、被害はこんなにも大きくならなかったであろう。しかし、タイミングが悪かったことを恨む気持ちとともに、日本の火山観測・監視体制が世界の主要な火山国と比べてもきわめて貧弱だと聞くと、「世界有数の火山国なのに何故」という気持ちも抑えることができない。日本には活火山が110あるとされているが、気象庁が常時監視しているのは47火山。しかもこの間、測候所は相次いで廃止・無人化。御嶽山でも、岐阜県側の高山測候所が2005年に、長野県側の松本測候所が07年に廃止・無人化され、現場で火山活動を専門的に観測する人がいなくなった。各地の大学も観測体制を敷き、気象庁にデータを提供してきたが、04年の国立大学の独立行政法人化で国からの運営費交付金が減らされ、観測体制を縮小している。欧州最大の火山国・イタリアは、欧州最大の国立研究機構のもとで、8つの火山観測所で観測にあたっているが、地球化学などの専門家を各観測所に配置、専門家の数は総勢150人にのぼるとのこと。日本と同程度の火山があるインドネシアは、65火山を観測対象として観測所を設置、各観測所には専門家2,3人を配置しているそうだ。他方、日本は、国立大学の火山研究者は40人程度で、各火山ごとの活動のくせを知る「ホームドクター」のような火山の専門家はほとんどいない。火山噴火は、地震よりまれにしか起きないため、直接的で実証的な研究が進みにくい難しさがあり、実用的な成果を短期間で求める風潮が強まる中で、火山研究者が減っていく一因にもなっているようだ。世界有数の火山国である以上、国が危機感をもって予算の継続的な確保と人材育成に力を入れることが、火山国・日本の将来のために必要だろうと思う。

異変を観測する体制を整えるとともに、警戒レベルをどう設定して、登山者にどう知らせていくか、万が一の事態に備えてシェルターなどを設置するのかどうかなどの課題については、それぞれの火山ごとに、地元自治体、気象庁や火山研究者、登山愛好者らがよく話し合い、合意を作り、一歩ずつ仕事を進めていってほしい。今回の御嶽山の噴火でも、噴火11分前に火山性微動、7分前に地殻変動が記録されていたと言う。大音量の防災スピーカーなどでこの異変を山頂にいる人に伝える仕組みがあり、逃げ込めるシェルターも整備されていれば、恐らく被害を減らすことができただろう。安易な登山規制は、地元経済にマイナスの影響を与え、登山の機会を奪うことにもなり簡単ではないが、今回の噴火が警戒レベル1(平常)という表示の中で起きてしまったという点も含めて警戒情報の出し方は検討が必要だろう。登山者の側にも、活火山に登る際には、警戒情報に注意を払い、念のためヘルメットを着用するなどの準備も必要なのかもしれない。

今回の災害は、戦後最悪の火山災害だったと同時に、犠牲者がすべて登山者だったことから考えて、戦後最悪の山岳遭難事故とも言える。自然を相手にする以上、完璧な準備、完璧な安全対策などあり得ないだろう。しかし、私たち世界有数の火山国・日本に住む山岳関係者としては、災害の教訓として、次のようなことを確認したいと思う。今回の災害に遭われた少なくない皆さんの悲劇を無駄にしないためにも。

 

1.火山についての観測・警戒体制を抜本的に充実させること。とりわけ、各火山の特徴・くせを知る地域密着のホームドクター的な火山研究者を養成すること

 

2.各火山の警戒情報の出し方、スピーカーの設置、シェルターの設置など安全対策については、地元自治体、火山研究者、登山愛好者などを集め、よく協議して、できるものから実施に移していくこと

 

3.登山者や登山団体は、火山に登る際、専門家の観測に基づく勧告を参考にしつつ、自己の責任で登山を行う気持ちを持つこと。また、マスクの携行、ヘルメットの着用など、必要と思われる対策をとること

 

上野 司

 

 

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