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3月号 「山登りでは、冷静な判断が何より大切」

3月号 「山登りでは、冷静な判断が何より大切」

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 「山登りでは、冷静な判断が何より大切」

今年の2月は雪が多く、山登りも随分と影響を受けた。2月最初のワゴン車の山旅「川苔山」は、出発時から雨模様の天気だったが、山では雨が雪に変わり、山頂直下では雪のため登山道がわからなくなるほどで、途中撤退を余儀なくされた。その後、関東には何十年ぶりという大雪が2度あり、一度目の大雪は8日の市民ハイキングを直撃。行先を雪の高尾山に変更したものの、帰りは圏央道も通行止めとなり、一般道も動けなくなる車で大渋滞、八王子から北本まで6時間もかかってしまった。二度目の大雪は山行には直接当たらなかったが、降雪3日後18日の日光雲竜渓谷では、雪のため渓谷に続く林道が車で入れず、歩行距離が長くなったことに雪のラッセルも加わって、目的の氷瀑まで辿り着くことができなかった。

刻々と変わる天気と天気予報の中、行きたい・登りたいという声に応えながら、安全で楽しい登山をコーディネートしていくことの難しさを改めて感じた。今回は雪による車やアプローチのトラブルという面が強いが、登山中に途中で引き返す勇気を含めて、事態をいつも冷静に判断し、行動することが山登りにおいては本当に大切だと思う。

こんなことを偉そうに言っている私だが、自分の無謀な判断や慢心・焦りから死の危険に直面したことが何度かある。今日は、恥ずかしながら、その話を一つしたい。あれは、まだ20代の中ごろ、5月の剣岳へ山スキーで出かけた時の話だ。「剣岳点の記」でも知られているように、剣岳の初登頂は長次郎谷左俣の雪渓をつめて、登りつめた稜線から左に尾根をたどってなされたものと考えられているが、この稜線で眼下に続く雪の大斜面を前に、私は逡巡していた。この山行では荷物を軽くしようとテントを持ってきておらず、前日夕方から始めた雪洞堀りに思わぬ時間がかかり、就寝時間が遅くなってしまった我々パーティーは、起床・出発時間も遅くなってしまい、頂上を往復して左俣のコルまで戻って来たとき、既に時計の針は午後4時を回りかけていたと思う。夕方になるにつれて雪面はみるみる固くなり、斜度は40度近い。他の仲間は滑降するのを諦めて、スキーを背負って急な斜面を歩いて下って行く。私はせっかくここまでやっと背負いあげたスキーを再び背負って下ることにどうしても納得できないものを感じ、凍りつつある急斜面に勇躍飛び込んでいった。1ターン目、2ターン目は何とか雪面にエッジを喰い込ませることができたが、3ターン目くらいだったと思う。エッジが凍った雪面をとらえることができず転倒。そのままスキーを下にお尻で滑るような形でずり落ちていったが、10mくらい滑ったところで今度は頭が下になり体は回転運動を始める。初めは自分でも回転を始めたなということが意識できるくらいの回転スピードだったが、落ちるにつれて回転スピードはどんどん速くなり、ほとんど気を失うくらいの回転スビードになったとき、突然緩くなった雪面にスキーが突き刺さり、突き刺さったスキーから10数メートルも吹っ飛ばされる形で私は雪上に投げ出された。運よくどこも打っておらず、足も折っていない。今しがた刺さったスキーがビーンと揺れており、見上げる先、はるかかなたの雪渓上部を歩いて降りてくる仲間の姿が目に入った。300mくらいは転がってきたのではなかろうか。そこは、長次郎雪渓が左俣と右俣に分かれる熊の岩という平らになった部分で、その下は雪渓の斜度が随分と緩くなっているので、私は急斜面部分を全部転げ落ちてきたことになる。それにしても運が良かった。転げ落ちた斜面は豊富な雪で岩などが一つも出ておらず、何物にもぶつかることなく、この300mを転げ落ちることができたのだから。

 今考えると、本当に若気の至りだった。こういうのを無謀というのだろう。今よりスキーも上手くなく、スキーのエッジも良くなかった。その後、私は正午前後の雪がゆるんだ時に、この同じ斜面をスキーで滑降しているが、あの時は斜面の固さが全くちがっていた。チャレンジするのはいいが、目の前の状況を冷静に見つめることができず、「ここまで担ぎ上げたのだからもったいない」「何とかなるだろう」と甘い判断を下すことは無謀と言う他ない。

 この経験を含めこれまでの幾多の「ひやり」「はっと」の経験が今の自分の判断を支えているのだと思うが、経験途上で死んでしまっては何にもならないので、「ひやりはっと」の経験もほどほどにしなくてはなるまい。とりわけ、NPOでの引率登山のような場合は、何よりも安全を最優先にしなければならない。自分で一定のリスクを自覚しながらチャレンジする登山とは違い、引率登山の場合参加者の皆さんは、安全に登山できることを信じて、リーダーに命を預けているのだから。気象条件、メンバーの体力・技術など置かれた条件の中で、安全性を最優先しながら、ベストな登山を追求する、そんな姿勢でこれからもNPO登山を率いていきたい。そんなことを改めて考えさせる雪の中の登山であった。 

上野司

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