〒364-0035 北本市西高尾3167ヒライビル101 TEL/FAX 048-592-2814

6月号「グレートジャーニー人類の旅から学ぶこと」

6月号「グレートジャーニー人類の旅から学ぶこと」

このエントリーをはてなブックマークに追加

 先日、国立科学博物館で開催されている、特別展「グレートジャーニー人類の旅」を見に行く機会にめぐまれました。ご存じの方も多いことと思いますが、グレートジャーニーとは、6万年前にアフリカから世界各地に広がった人類が、行く先々でその場所の自然環境に適応しながら、およそ1万年前までに南アメリカの最南端に辿り着いた壮大な旅のことです。医師で探検家の関野吉晴氏が、南米大陸の最南端を出発して、足かけ10年をかけて、人類発祥の地である東アフリカまで逆方向で辿る旅を成し遂げたことで広く世に知られるようになりました。

 今回の特別展は、関野氏を中心に企画され、この冒険旅行の全貌とこの旅で巡った世界の多様な環境に暮らす人類の様々な生活の様子や知恵・生き方を紹介したもので、入場料は決して安いものではないのですが、子どもたちや若者を含む大勢の人たちが見に来ていました。私は、展示に見入る多くの人波にもまれながらも、音声ガイドを聞き、説明・解説の文章を一言一句もらさずに読みながら2時間以上かけてすべての展示を見てまわりました。普段は博物館の展示をここまで真剣に見ることはないのですが、今回こんなにも展示に集中できたのは、冒険の旅がもともと大好きなことに加え、世界各地の地域で長い年月をかけて生み出され、育てられてきた生活の知恵に感動し、またこの人類の偉大な旅の中に、2013年この日本の埼玉に生きる私の個人的人生もあるのだということを実感したからに他なりません。ここで、そのすべてを紹介することはできませんが、感動したいくつかのことについて紹介させてください。

 関野さんは、南米旅行に足繁く通う中で、そこに住む人々がわれわれ日本人とよく似ていることに気づき、「いったいこの人たちはいつごろどこからやって来たのだろうか」と疑問に思ったことで、グレートジャーニーの旅を思い立った、と述べています。今では、アフリカから出発した人類が、アジアを通り、シベリアからアラスカを通って新大陸に渡り、北アメリカから南アメリカに南下していき、南米最南端に到達したことがわかっており、私たちアジア人と北米インディアンや南米の人たちとがよく似ていることはまったくうなずける話なのです。

 何万年前というとあまり実感がわきませんが、関野さんはこのようにも言っています。1世代を30年とすると、私たちの10世代前の先祖は、江戸時代の中期を生きており、100世代前は縄文時代、2000世代前ならば、6万年前の現生人類の出アフリカの頃に生きていたことになると。私にとっては100とか2000とかは十分実感できる数であり、その世代の中で、人類がいかに苦労しながら寒冷地帯や乾燥地帯にも適応し、世界に拡散していったのか、何か身近な方の苦労話のように感じられました。

 そして、その人類の偉大な旅が、私たちが山登りの際にいつも感じる「とりあえずあの目の前に見える山を目標にしよう」というミニゴールまで歩くことの繰り返しの結果だったというのです。関野さんは言います。「中断や失敗を繰り返したとしても、諦めなければ必ずゴールに着く。一歩一歩ってすごいなと思う」。

 このようにして世界に拡散していった人類の中で、昔ながらの伝統文化を守り、自然に負荷をかけない形で今も自然とともに生きている多くの人たちの中にある優しさ、温かさには、やはり感動してしまいます。関野さんは、こういう地で旅を始めるとき、「泊めてください」「食べさせてください」「その代わりに自分ができることは何でもしますから」と頼み込んだそうですが、見ず知らずのよそ者・関野さんを拒否する村はほとんどなかったといいます。そんな人々の暮らしの中で、関野さんは、乾燥地帯で暮らす人々の知恵とやさしさについて一つの話を紹介しています。砂漠では動物の皮を使い水筒を作るのだそうですが、皮袋の中に入れた水は時間をかけて少しずつしみ出し蒸発するので、蒸発の際気化熱が奪われるため、中の水は熱くならないのだそうです。逆に、日本から持ち込んだポリタンの水はお湯のように熱くなり、飲めなかったそうです。エジプトでは、行く先々に素焼きの水ガメがあって、中には水が入っていて、旅人はいつでも自由に水を飲むことができるのだそうです。この水ガメの水は、「共同の水飲み場」として、水の大切さを知っている近所の人たちが、いつ来るかわからない旅人のために絶やさないようにしているとのことでした。いい話ですね。

 新幹線、リニアモーターカーなど高速の交通路を確保するために、そして文明化されたいまの生活様式を維持するため、忙しく働かなければならない現代人。忙しいので、ますます高速の交通手段や便利な生活を求め、またもっと忙しくなっていく。そんな悪循環に陥っている私たちの生活に比べて、シンプルだがゆとりがあるように見える彼らの生活。もちろん彼らの生活にも苦労はあるのでしょうが、自然とともに、優しくゆったりとした気持ちの中で、シンプルに暮らす彼らの生活に、私たちのライフスタイルを考え直すヒントがあるのは確かでしょう。

 関野吉晴さんは言います。「私たちは疑うことをしないで経済発展に勤しみ、物質的に豊かで、効率よく、快適な暮らしを作り上げてきた。しかし同時に、森林を破壊し、海を汚し、影響はオゾン層にまで達してしまった。そして今後限りある資源は枯渇していく。着実に迫る世界文明の崩壊を回避するために、まずは私たち一人一人がこの現状を見過ごさず、正しく受け止めなくてはならない。(中略)彼ら先住民の暮らしや考え方の中、つまり文化の中に私たちが生き延びていくために必要で重要なヒントが詰まっているのではないか。もちろん、そっくりそのまま活かせるなどというつもりは毛頭ない。ただ、彼らが培ってきた知恵の数々の中に、私たちの「落とし物」「忘れ物」を見つけることができると思うのだ」と。

上野 司

« »

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です